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モチーフの味わいあふれる、型絵染ふきん。

小田中耕一さん型染工房小田中

  • Text / HIROKO MIZUNO
  • Photo / MOMOKO SHIMOTAI
2017.03.27
いとへん

地元の染物屋を継ぐ。

紫波町の染物屋に生まれた小田中耕一さんは、高校を卒業したあとすぐ、染色工芸家である芹沢銈介氏のもとで修業を重ねました。『型染工房小田中』は、小田中さんの祖父の代から始まった地元の染物屋です。店の暖簾に「萬染物処」とある通り、農家の野良着をはじめ、祝い事の半纏や手ぬぐいなど、時代に応じた染め全般を請け負ってきました。

紫波町は昔から水にも恵まれた米どころ。酒蔵も多く点在する豊かな土地柄であり、四季折々の祝い事や祭りで染め物の需要が多い地域でした。小田中さんはそんな環境のもと、家業を継ぐべくじっくり修業を重ねるつもりでしたが、31歳の時に実家へUターン。父の病気がきっかけでした。

「型」の生み出す面白さに惹かれて。

芹沢氏のもとで学んだのは8年間。工房に掲げられた師匠直筆の色紙「まず 仕事」の言葉は、常に小田中さんの胸に刻まれています。

師・芹沢銈介が見守る工房

型染めの世界は分業制の工房が少なくありませんが、芹沢氏は自身がデザインした型を染めまで一貫してトータルプロデュースする「型絵染」の技術で人間国宝となっています。実は小田中さん、弟子入りするまでそのことを知らなかったのだとか。弟子入りするにあたっては、最初に「染めを学びたいのか、意匠としての型絵を学びたいのか」と問われたそうです。

型染めに使う糊
型染め絵でイベントフライヤーの原画を製作する

「もし染めを習いたいのであれば、他にも勉強する場があると。私自身は芹沢氏の意匠的なものに強く惹かれていました。染めの技術を用いながら、色をつけなくても『型』だけで素晴らしく面白いデザインのものが仕上がることにまずは驚いたんですね。さらに、紅型の勉強をした芹沢先生ならではの鮮やかな配色にも驚かされました」。

当然のことながら、芹沢氏のもとへ弟子入りを希望したとしても断られるケースも多く、「居てもいいと言われたのは運が良かった」と小田中さんは笑います。

型は何度も使用できるよう、丈夫に仕上げられている

「芹沢先生は下絵をおおざっぱに描きつつ小刀で輪郭をとるのですが、あまり下絵を気にしない。なかなかそうはいかないもので、私の場合は彫る前に輪郭を細いペンで彫り、そのあとにまた小刀で彫っていきます。例えば、線一つ引いても左右に揺れが生まれたり、板の節目に小刀があたって歪みが生まれたり。その偶然の面白さを狙いながら線を引くこともあります」。

修業時代、沖縄へ出向2ヵ月ほど紅型を学んだのも芹沢氏の勧めによるものでした。紅型独特の絵柄や明るい色使いを立体的に見せる「ぼかし」の技法は、芹沢氏独自のものを継承。師匠から受け継いだのは幅広い技法と共に、仕事に向き合う姿勢だと話します。

デザインとしての「型絵染」

基本的に小田中さんの仕事は、作品をつくるというよりも、デザイナーとして依頼を受けて要望に応じたものをつくり上げること。風呂敷や暖簾、ふきんや手ぬぐいなど、暮らしのなかで使う布モノが多いのですが、日本的なものにとらわれない幾何学的なデザインモチーフがとても粋な印象です。

染めの作業場。ふきんは「注染(ちゅうせん)」という技法で染める

また、カレンダーや本の表紙、雑誌のイラストレーションなど、印刷物の仕事も徐々に増えつつあります。例えば、「手仕事フォーラム」が発行するカレンダーも毎年人気の商品ですが、小田中さんが一つひとつ月ごとのデザインをおこしています。

「実はスパンの長い仕事は苦手でして。1月から12月まで悩みながら図案ができたら一気につくりあげないと自分の熱量が下がってしまうんですね。常にペンを側に置いて、翌年分のアイデアを考えています。家族の頭も借りながら(笑)」。

考える時間は苦しいながらも、出来上がったデザインが色を纏ってどう変わるのか、その期待感も楽しいといいます。

文庫本表紙のイラスト原画。全国から依頼がくるという

取材に訪れた日、小田中さんは、ちょうど文庫本の表紙デザインに使われる型絵の染め作業に取り掛かっていました。

紙の糊を置いて乾燥させたあと、事前に計画した色に合わせて顔料を置いていきます。まずは、「朱」を置いてポイントを決めるのだとか。ちなみに糊は、昔と変わらず地元でとれたもち米に脱脂した糠を加えて粘りを整え、防腐用の石灰を入れてつくります。

「もうすぐ、祖父が亡くなった70になります。その時、自分がどうなっているのか。越えたいというか、現状のまま死んではいられないし、まだまだ仕事をしなくては」。

生きていればこその仕事だから、と真面目な話をする時もどこか愛嬌たっぷりの小田中さん。型絵染は、ゼロからはじめて、下絵、染めまでをじっくり考える「生みの苦しさと面白さ」があると話します。

「自分でつくったものは最後まで自分でやらないと気が済まない。早い話、人にはやらせたくないわけですよ」。

地元にある酒蔵「廣喜(ひろき)」の干支ラベルも製作

カタチ、色、素材による風合い、どれも小田中さんならではの技術と繊細なセンスによって生まれた作品ばかり。数々あるなかでも普段の生活で使うふきんは、ハンカチがわりに何枚も揃えておきたい人気の品です。よく見れば、その輪郭のゆらぎ具合や独特の色合いは温かみにあふれ、小田中さん自身のキャラクターが垣間見えるようです。

紹介商品の詳細、ご購入はこちらから

小田中耕一さん(型染工房小田中)の

型絵染ふきん

¥770(税込)

作り手

小田中耕一さん型染工房小田中

紫波町出身。地元の高校を卒業後、人間国宝・芹沢銈介氏の芹沢染紙研究所で8年間修業し帰郷。実家の染め物店で手ぬぐいや風呂敷き、暖簾などの型染め、染め絵の制作を行っている。国画会準会員。

〒028-3441 紫波郡紫波町上平澤字南馬場60-1
019 - 673 - 7605
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